本場バレンシアの米と焦げを求めて——2026年の新宿タカシマヤで「世界一のパエリア」が放つ抗えない魔力
ミゲルフアニ 新宿の扉を開けた瞬間、鼻腔をくすぐるのは香ばしい米の焦げた匂いと、燻製パプリカ、そしてローズマリーの鮮烈な青さだ。新宿タカシマヤ13階、テラスから都心の摩天楼を見下ろすレストラン街で、乾いたスペインの熱風が吹き抜ける。スエカで開催される国際パエリアコンクールで世界チャンピオンに輝いたパコ・ロドリゲス氏の魂を受け継ぎ、東京の食シーンに君臨し続けてきた名店。2026年の今もなお、鉄鍋を囲む人々の喧騒と熱気は少しも冷めていない。皿の底に焼き付いた至高のひと口を求め、街のノイズを脱ぎ捨てた人々が吸い寄せられていく。
日本で一般的に浸透しているパエリアといえば、ムール貝や有頭エビが派手に盛られたシーフードの絵面かもしれない。しかし、ランチのピークを迎えたミゲルフアニ 新宿のオープンキッチンで火花を散らしている主役は、ウサギ肉と鶏肉、そして幅広のインゲン豆が織りなす素朴な山の滋味だ。スプーンの背で鍋肌をこそげ落とす、カリッとした乾いた金属音。妥協を許さない現地の味付けをそのまま東京の胃袋へ届けるという覚悟が、その音に凝縮されている。
魚介ではない「山のパエリア」——世界大会を制したウサギ肉の衝撃
パエリアの発祥地であるバレンシアにおいて、米は具材の出汁を吸わせるためのキャンバスに過ぎない。この鉄則を真っ向から突きつけてくるのが、看板メニューの「パエリア バレンシアナ」だ。
鍋一面に広がるのは、ウサギ肉と鶏肉の野性味あふれる旨味。そこにモロッコインゲンや白インゲン豆のホクホクとした甘みが加わり、ローズマリーの枝が一本、荒々しく横たわる。口に運んだ瞬間、濃厚なブイヨンを吸い尽くした米粒が弾けた。噛み締めるほどに骨太な肉のコクが広がり、ハーブの清涼感が重さを断ち切る。日本人向けに塩気を抑えたり、具材を無難な魚介にすり替えたりする小細工はここにはない。現地の味をそのまま咀嚼する快感が、喉の奥を熱くさせる。
フライパンにへばりつく「ソカラ」の至福、スプーンで削り取る快感
パエリアの真骨頂は、何と言っても「ソカラ(Socarrat)」と呼ばれるお焦げだ。だが、ただ焦がせばいいわけではない。
ミゲルフアニのソカラは、職人技の結晶だ。米の厚みは鍋底から数ミリ程度と極めて薄く敷き詰められ、強火のタイミングを見極めて均一に焼き固められる。スプーンで力を込めてこそげ取ると、ペリペリと音を立てて剥がれる飴色の米粒。これが驚くほど香ばしい。苦味の一歩手前、旨味成分がメイラード反応によって極限まで凝縮された瞬間を捉えている。歯ざわりはクリスピーで、噛むたびにジュワリと濃厚なスープの記憶が蘇る。この薄皮一枚の焦げを奪い合う瞬間こそ、テーブルを囲む醍醐味だ。
パスタで作る「フィデウア」の誘惑、アイオリソースの背徳的なコク
米だけがパエリア鍋の主役ではない。ショートパスタを香ばしく炊き上げた「フィデウア」を頼まない手はない。
極細のパスタが濃厚な魚介スープを限界まで吸い込み、ピンと上を向いて鍋肌に焼き付いている。口に含むと、米とは異なる独特の弾力と、凝縮されたイカやエビのエキスが爆発する。ここで絶対に欠かせないのが、ニンニクがガツンと効いた自家製のアリオリソースだ。黄色みがかった純白のクリームを熱々のパスタに絡めると、温度でニンニクの香りが立ち上り、強烈なパンチとオリーブオイルのコクが舌を包み込む。胃袋のブレーキが壊れる感覚。背徳感に満ちたこのひと皿は、一度知ってしまうと後戻りができない。
2026年現在の待ち時間事情と予約戦略:タカシマヤ13階の混雑を攻略する
これほどの味を提供する店だからこそ、行列は日常茶飯事だ。2026年現在、新宿タカシマヤのレストランフロアはデジタル整理券システムが定着しているが、それでも油断は禁物だ。
狙い目は平日の13時30分以降、あるいは事前のディナー予約だ。パエリアは注文を受けてから生米からじっくり炊き上げるため、テーブルに届くまで最低でも30分前後はかかる。この「待つ時間」をどう楽しむかが、スマートな大人の過ごし方だ。生ハムの原木から切り落とされるハモンセラーノをつまみ、冷えたカバ(スペインのスパークリングワイン)を傾けながら、パエリアパンが運ばれてくるのを待つ。空腹を最高の調味料に変える余裕を持って訪れたい。
タパスと土着ワインのペアリング:夜の新宿で味わうカタルーニャとバレンシアの風情
陽が落ちると、店内の表情は一変して活気あるバルの空気をまとい始める。温色系の照明に照らされた空間で、ワインのコルクが軽快な音を立てて抜かれていく。
アヒージョのオイルが跳ねる音、イベリコ豚の脂が舌の上で溶ける感覚。合わせるワインは、スペイン各地の土着品種にスポットを当てたセレクトが光る。バレンシアのモナストレルやボバルといった力強い赤ワインは、ウサギ肉の滋味深さを完璧に受け止める。グラスを傾けながら窓の外に目をやると、光の海となった新宿の夜景。ヨーロッパの片田舎の郷土料理と、極東の巨大都市のコントラストが、なんとも言えない酔い心地をもたらしてくれる。
妥協しない本場の味はなぜ日本で受け入れられたのか
かつて日本の洋食は、現地の味を甘やかすように角を丸めて提供されるのが常だった。だが、舌の肥えた現代のフーディーたちが求めているのは、手加減なしの「本物」だ。
塩の効かせ方、ハーブの主張、そして米をふっくら炊くのではなく極薄に焼き締めるという、日本の米文化とは正反対の美学。この店が支持され続ける理由は、バレンシアの伝統に対する冷徹なまでの誠実さにある。新宿のど真ん中で鍋底をガリガリと削りながら、私たちは単に料理を食べているのではない。海を越えて受け継がれる情熱そのものを味わっているのだ。 (出典: ミゲルフアニ 新宿(Yahoo!ニュース))