高松港の光と影が交差する路地裏で何が起きているのか? 変貌するウォーターフロントの現在地
高松 市 城 東町は、瀬戸内海からの潮風と昭和の残照が今なお色濃く絡み合う、高松市中心部の特異点だ。高松城跡(玉藻公園)の東側に広がるこの地域に足を踏み入れると、巨大なアリーナや最新の商業ビルが林立するサンポート地区の眩い光景とは打って変わって、どこか時間の流れが止まったかのような街並みが視界を塞ぐ。錆びついたトタン屋根、昼間は人気のない細い路地、そして潮の匂い。近代的な都市計画の波が押し寄せるなか、長年独自の空気を保ってきたエリアに、いま静かな地殻変動が訪れている。
かつて港湾関係者や夜の客で賑わった歓楽街としての記憶を抱える高松 市 城 東町だが、2026年の今、その輪郭は少しずつ書き換えられつつある。古い長屋を改装したアトリエや、看板も出さずに営業するクラフトビールの蒸留所がぽつりぽつりと点在し始めたのだ。再開発の熱狂と、下町のリアルな生活臭。この二つが拮抗する現場を歩いた。
サンポート再開発の波が洗う「境界の街」
高松駅から東へ歩いて十数分。あなぶきアリーナ香川(香川県立アリーナ)の開業を経て、瀬戸内の玄関口として国際的な注目を集める高松港周辺。その熱気は、東部へとじわじわと染み出している。港湾機能の再編に伴い、かつての倉庫街や遊休地の活用が進むなか、城東町はその「境界線」に位置する。
駅周辺の土地価格が高騰を続ける現在、開発業者や個人投資家の視線が向くのは当然の流れだった。港に近く、中心街の片原町商店街へも徒歩圏内。にもかかわらず、長らく開発から取り残されてきた土地。そこには古い木造住宅が密集し、権利関係が複雑に入り組んだ更地が点在している。「手つかずの隙間」を巡る静かな争奪戦が、水面下で熱を帯びている。
老舗スナック街の静寂と、路地裏に灯るスペシャリティコーヒー
城東町を象徴してきたのは、かつての歓楽街の面影を残す密集したスナックビル群だ。昼下がりの路地は驚くほど静まり返っている。色褪せた看板の文字、格子窓の奥から微かに漏れる換気扇の音。高齢化に伴い店主が看板を下ろした店舗も少なくない。
だが、その廃業した元スナックの扉を押し開けると、意外な空間が広がっていることがある。県外から移住してきた焙煎士が営むロースタリーや、現代アートの展示スペースだ。「外観はあえてそのままにしています。この街が積み重ねてきた猥雑さと歴史が、作品やコーヒーの背景として一番しっくりくるんです」。3年前に大阪から移り住んだカフェオーナーは、そう呟きながら深煎りの豆を挽く。新旧の住人がすれ違う路地には、独特の緊張感と奇妙な調和が同居している。
地価上昇と空き家再生が突きつける「下町コミュニティ」の変容
不動産需要の高まりは、長年ここに住み続けてきた古参住民に複雑な影を落とす。相続放棄された空き家の解体が進む一方で、新築のアパートや戸建て住宅が虫食い状に建設され始めた。長屋の並びに突如現れる、無機質なサイディング張りの近代建築。町並みの連続性は急速に失われつつある。
「昔は隣の家の晩ご飯の匂いまで分かったもんですよ」と、駄菓子屋の店先で腰掛ける80代の女性は語る。「若い人が増えて明るくなるのは嬉しいけれど、町内会の掃除に来る人は減る一方。この街がどこへ向かっているのか、見当もつかないね」。家賃の安さに惹かれて集まる若者たちと、かつての港町の絆を守ろうとする高齢層。双方が交錯する接点は、まだ決して多くない。
水害リスクと避難計画:海抜ゼロメートル地帯を抱える現実
開発ムードの一方で、避けて通れないのが防災という冷厳な事実だ。城東町周辺は海に近く、低地が広がる。高潮や南海トラフ巨大地震に伴う津波被害の想定区域に指定されており、インフラの脆弱性を指摘する専門家の声は根強い。
老朽化した木造密集地域での火災リスク、大雨時の内水氾濫。香川県や高松市が進める防災対策も、細い路地が入り組むこの地区では工事車両の進入すらままならない場所がある。新しく移り住む若い世代は、このハザードリスクをどれほど認識しているのか。街のリノベーションが進むスピードに対し、命を守るためのハード整備は遅れをとっているのが実情だ。
2026年、移住世代と古参住民の間に芽生える「新たな共生」
断絶ばかりではない。2026年に入り、地域主導の小さな対話が芽生え始めている。自治会と若手事業者による共同の防災ワークショップや、空き地を利用した青空市場など、街の記憶を継承しながらアップデートを試みる動きだ。
「古い街をただ壊してマンションにするのではなく、この場所のディープな魅力を残したまま安全に暮らせる方法はないか」。活動を主導する地元有志の模索は続く。外からの資本による画一的な再開発を拒み、泥臭い下町の文脈をどう生かすか。彼らが描くのは、商業主義に回収されない、生々しい人間味を残した街の再生だ。
瀬戸内カルチャーの周縁として選ばれる理由
高松港を起点とする瀬戸内国際芸術祭の熱気は、観光客を離島へと運んでいく。しかし、旅慣れた人々の一部は、整えられた観光地ではなく、城東町のような「生活と歴史のひずみ」に惹きつけられている。
観光地化され尽くしていない、無骨で飾らない日常の風景。海と陸の境界に位置するこの場所は、洗練されたサンポートの高層ビル群に対する、痛快なカウンターカルチャーの拠点になり得るポテンシャルを秘めている。過去の重みと未来の不確実性を抱えながら、路地の片隅で新しい鼓動が鳴り響いている。高松の港町が辿る進化の実験場として、この街の現在地から目が離せない。 (出典: 高松 市 城 東町(Yahoo!ニュース))