最後の直6FRサルーンが日本から消える?2026年、中古車市場で日産「ローレル C35」に海外マネーが殺到する衝撃の内幕
ローレル c35が、いま全国のオートオークション会場で異様な熱気を帯びている。かつて「少し渋めのおじさんセダン」あるいは「手頃なドリフト練習機」として解体屋の片隅に並んでいたこのFRサルーンが、2026年の現在、驚くべきスピードで日本列島から姿を消しつつある。走行距離15万キロ超、塗装のクリアが剥げたボロボロのAT個体ですら、競り落とされた瞬間に横浜港や神戸港のヤードへ直行する。現場で何が起きているのか。相場の急激な地殻変動を取材した。
都内近郊の旧車専門店に足を運ぶと、プライスタグを見て絶句する若者の姿があった。スカイラインGT-Rやシルビア(S15)が庶民の手の届かない雲の上の存在となり、トヨタのJZX100系ツアラーVすら投機マネーに呑み込まれたいま、RBエンジンを積んだ最後の砦たるローレル c35に、世界中の熱烈なJDMバイヤーたちの照準が完全に定まってしまったのだ。
北米「25年ルール」の解禁ラッシュと激変する相場
主たる震源地は、言わずと知れたアメリカの「25年ルール」だ。製造から25年を経過した右ハンドル車が米国の厳しい保安基準(FMVSS)を免除され、合法的に輸入・登録できるようになるこの制度。1997年に登場したC35型ローレルは、数年前から初期型の輸出が始まっていたが、2026年の今年、市場は決定的な転換点を迎えている。
後期型(1999〜2002年)の熟成されたモデル群が続々と25年枠に突入しているのだ。とりわけ衝突安全ボディ「ZONE BODY」を強化し、ヘッドライトやグリルの意匠を端正に改めた後期ターボ車への需要は凄まじい。円安の長期化も手伝い、アメリカの愛好家にとっては「日本で300万円でもバーゲンセール」に見える。地方の納屋で眠っていたワンオーナー車が、突如として国際送金の対象になる時代が現実となった。
「ツアラーVの代役」から脱却した名機RB25DET NEO6の魔力
長い間、C35は同世代の宿敵・トヨタ「チェイサー/マークII(JZX100)」の陰に隠れた日陰者だった。1JZ-GTEの暴力的なトルクとアフターパーツの豊富さに圧倒され、RB25DETを積むC35は「安く買える代替品」と割り切られることが多かったのは否定できない事実だ。
だが、時代は回った。いま再評価されているのは、日産が直列6気筒の集大成として磨き上げた「NEOストレート6」のフィーリングそのものである。可変バルブタイミング機構を備え、自主規制いっぱいの280馬力を発生するRB25DET NEO6。高回転域まで淀みなく突き抜ける甲高いエキゾーストノートは、電動化やダウンサイジングターボの波に呑まれた2026年の自動車社会において、もはや工芸品のような純粋さを放っている。「1JZのトルク感もいいが、RBの伸びやかな吹け上がりこそ至高」と語る海外ファンは後を絶たない。
クラブSかメダリストか:二極化するマニアの選別眼
C35を語る上で欠かせないのが、走りを意識したスポーティグレード「クラブS」と、往年の日産高級セダンの血統を受け継ぐフォーマルな「メダリスト」という明確なキャラクターの分岐だ。
ドリフトやストリートカルチャーの文脈では、4灯プロジェクターヘッドライトを構えたクラブSが圧倒的な支持を集める。一方で、クロームメッキグリルとスクエアなヘッドライトを備えたメダリストを好む層も急速に増えている。いわゆる「VIPスタイル」や「スリーパー(羊の皮を被った狼)」仕様を好む北米や豪州のフリークたちが、あえてメダリストのボディにRB25DETやRB26DETTを押し込み、マニュアル換装して楽しむ。この二面性こそ、兄弟車であるR34スカイラインにはない独自の奥深さだ。
純正部品の枯渇と「3Dプリンター世代」の維持革命
だが、夢のような熱狂の裏で、国内の既存オーナーたちは深刻な現実に直面している。純正部品の急速な廃盤・製廃(製造廃止)だ。
スカイラインであれば「ニスモ・ヘリテージパーツ」の恩恵を一部受けられる。しかし、ローレル専用の内外装パーツ、ドアモールやウェザーストリップ、エアコンルーバーといった樹脂パーツはことごとく手に入らない。中古オークションでは、爪が折れていないエアコン吹き出し口パネルが数万円で取引される異常事態が続く。
この危機を乗り越えようと、2026年の現場ではオーナーコミュニティによるデジタルリバースエンジニアリングが活発化している。図面のない壊れやすい樹脂クリップやブラケットを3Dスキャナーで読み取り、耐候性フィラメントを用いて3Dプリンターで自製・共有する動きだ。メーカーの供給が途絶えても、自分たちの手で走らせ続ける。かつての旧車趣味とは異なる、デジタル世代ならではのサバイバル術が定着しつつある。
国内オーナーの苦悩:盗難リスクと日常の付き合い方
価値の高騰は、暗い影も落としている。車両盗難の脅威だ。かつては防犯ブザーすら付けずに青空駐車されていたクルマが、いまやプロの窃盗グループの標的リストに名を連ねている。
CANインベーダーのような最新の電子アタックではなく、昔ながらのキーシリンダー破壊や積載車による強引な持ち去りが多いのもこの世代の特徴だ。取材に応じた関東近郊のオーナーは、ステアリングロック、タイヤロック、複数系統のGPSトラッカー、さらには燃料ポンプの隠しキルスイッチを日常的に併用していると明かした。「ただ通勤やドライブに使いたいだけなのに、毎朝ガレージのシャッターを開けるまで胃が痛い」。相場高騰を手放しで喜べない、生粋のファンの切実な声がそこにある。
2026年以降の展望:単なる投機対象か、後世に残すべき遺産か
2002年8月、村山工場(東京都武蔵村山市)の閉鎖とともに静かに34年の歴史に幕を閉じたローレル。C35はその最終章を飾った、日産最後の「純粋なFR直6高級サルーン」だった。後継となったティアナはFFのV6へと舵を切り、時代は劇的に変わった。
2027年には、最終年式を含めたすべてのモデルが25年ルールの対象となる。海外への流出速度は今後さらに加速するだろう。しかし、投機目的でガレージに封じ込められるだけがこのクルマの運命ではないはずだ。ストリートでタイヤを滑らせ、直6の咆哮を響かせ、日曜の朝にピカピカに洗車される。日本の自動車文化が最もギラついていた1990年代末の熱気と色気を宿したC35ローレルは、世界へ散らばりながらも、その不器用な格好良さで人々を魅了し続けている。 (出典: ローレル c35(Yahoo!ニュース))