AI契約書時代になぜ誤用が続出するのか? 法的効力を左右する「若しくは」と「又は」の決定的一線

目次
AI契約書時代になぜ誤用が続出するのか? 法的効力を左右する「若しくは」と「又は」の決定的一線
AI契約書時代になぜ誤用が続出するのか? 法的効力を左右する「若しくは」と「又は」の決定的一線
@ creator • Click to Play Video Inline
🎵 AI契約書時代になぜ誤用が続出するのか? 法的効力を左右する「若しくは」と「又は」の決定的一線

若しくは 又は 違い――このわずか数文字の区別を「単なる言い回しの差」と片付けてしまえば、後になって企業の屋台骨を揺るがす事態を招きかねない。日常のビジネスチャットや口頭のやり取りであれば、どちらを用いても意思疎通に支障をきたす場面はほとんどないだろう。しかし、法律文や約款、業務委託契約書といった厳密な権利義務を定めるテキストに足を踏み入れた瞬間、この2つの接続詞は冷徹な主従関係を持った「論理記号」へと変貌を遂げる。

法務現場での生成AI活用が当たり前となった2026年現在、大手企業の法務部や顧問弁護士のもとには、人間による記述かAIのドラフトかを問わず、構文の歪みに関する相談が絶えない。皮肉なことに、自然言語処理モデルが洗練された今だからこそ、契約条項の奥底にある若しくは 又は 違いを人間がロジカルに掌握していなければ、予期せぬ巨額の賠償リスクを抱え込むケースが浮き彫りになっている。なぜ、この2つの言葉は決して混同されてはならないのか。その深層を解剖していく。

日常語と法令用語の断絶:なぜ「どちらでもいい」が通用しないのか

日常会話において「若しくは(もしくは)」と「又は(または)」を聞き分ける人はまずいない。「A若しくはB」と言おうと「A又はB」と言おうと、聞き手は単なる「選択肢」として受け取る。せいぜい「若しくは」のほうが少し改まった響きを持つ、程度の認識だろう。

この感覚をそのまま契約実務に持ち込むことが、すべての悲劇の始まりだ。日本の法制執務(法令や公用文を起草するルール)において、この2語は互換性のある同義語ではない。完全に役割が分担された、排他的な専門用語である。

ルールを知る人間が見れば、どの言葉をどの位置に置いたかによって、文面が指し示す対象の範囲が180度変わる。日常の言葉遣いと契約言語の間には、深い溝が横たわっているのだ。

鉄則のピラミッド構造:大きい選択肢が「又は」、小さい枝分かれが「若しくは」

使い分けの基本原則は、驚くほどシンプルだ。頭に入れておくべきルールはただ1つ、「グループの階層関係」に集約される。

まず、選択肢が同一レベルで1段階しかない場合。たとえば「東京」か「大阪」のどちらかを選ぶといった場面では、必ず「又は」を使用する。ここでは「若しくは」の出番はない。「東京若しくは大阪」と書いた瞬間、法令・契約用語としては不正確なドラフトの烙印を押されることになる。

では、「若しくは」はいつ登場するのか。答えは「選択肢が二重、三重に枝分かれするとき」だ。複数のグループを束ねる大きな選択の区切りに「又は」を使い、それぞれのグループ内にある小さな選択の区切りに「若しくは」を配置する。

図式化すると次のようになる。

「(A 若しくは B) 又は (C 若しくは D)」

大きな幹となる接続が「又は」であり、そこから伸びる小枝の接続が「若しくは」である。この主従関係を逆転させてはならない。大分類が「又は」、中分類・小分類が「若しくは」という序列は、日本の公用文作成において不動の鉄則だ。

実践例で解剖する:3つ以上の条件が絡み合う瞬間のパズル

具体例で考えてみよう。ある福利厚生規約で、手当の支給対象者を規定するシーンを想定する。

「正社員若しくは契約社員、又は役員若しくは顧問」

この記述であれば、大きく「従業員枠(正社員・契約社員)」と「経営・アドバイザー枠(役員・顧問)」という2つの大グループに分かれており、その中から誰かを選ぶ構造が一目で理解できる。大きな切れ目には読点(、)とともに「又は」が座り、グループ内の小さな並列を「若しくは」が繋いでいる。

これがもし、次のように書かれていたらどうだろうか。

「正社員、契約社員、役員又は顧問」

この場合、階層構造は存在しない。4つの立場がすべて同じ重みで横一列に並んでいることを意味する。法令用語では、同列の選択肢が3つ以上並ぶ場合、「A、B、C又はD」とカンマでつなぎ、最後の接続部だけに「又は」を置く。

さらに複雑な「3段階の階層」が生じた場合はどうなるか。大分類に「又は」を配し、中分類と小分類の双方に「若しくは」を重ねて充てる。つまり、「又は」は構文の頂点に君臨する単一の切り札として機能し続ける。

2026年の法務現場を揺るがす「AI生成ドラフト」の構文トラップ

契約書レビューツールの精度が飛躍的に向上した現在、一見すると文法的に完璧な条文案が数秒で出力されるようになった。しかし、ここに落とし穴がある。

大規模言語モデルは、前後の文脈からもっともらしい日本語を紡ぐ能力には長けている。だが、「若しくは」と「又は」が持つ厳密な論理演算子としての階層構造を、常に正確にハンドリングできるとは限らない。プロンプトで「損害賠償の免責条件に、自然災害、通信障害、サードパーティ製クラウドの停止を追加して」と指示を出した結果、AIが接続詞の階層を誤って配置する事例が散見される。

免責されるべき「原因」と「被害の範囲」の主従が狂い、本来なら免責されるはずの事象が、文脈上「自己の過失」と接続されてしまうようなミスだ。AIが吐き出した流暢な日本語に惑わされ、人間側が論理の破綻を見落とす。これこそが、最新のリーガルテック環境下で頻発している盲点に他ならない。

裁判例が示す教訓:接続詞ひとつで損害賠償の対象が激変した実務リスク

過去の裁判例や調停の現場において、接続詞の解釈をめぐる争いは決して珍しくない。特に問題となりやすいのが、契約解除条件や損害賠償の上限を定めた条項だ。

仮に「甲若しくは乙の故意、又は重大な過失」という条文があったとする。この記載では、「重大な過失」にかかる限定が「甲と乙の双方」に及ぶのか、それとも「乙の過失のみ」を指しているのかで論争が生じうる。接続詞の置き場所や読点の位置が曖昧な契約書は、有事の際に裁判官から「文言上、両義的に解釈可能である」と判断され、条項を作成した側に不利な解釈(作成者不利の原則)を下されるリスクを孕む。

数億円規模のシステム開発プロジェクトが頓挫した際、契約書の接続詞が1箇所狂っていたために、開発ベンダーが負うべき損害の範囲が数倍に膨れ上がった事例すら存在する。たかが接続詞、されど接続詞。裁判所は日常会話の感覚ではなく、文理解釈の厳密なルールに基づいて判決を下す。

今日から迷わないための3ステップ確認法と社内ガイドラインの策定

契約書や規約を作成・レビューする際、論理の破綻を未然に防ぐためのチェック手順は以下の3段階に整理できる。

第1ステップは「選択肢の階層を分解する」ことだ。紙やエディタ上で、並列にしたい要素をカッコで括ってみる。「(AとB)か、(CとD)か」という具合に、グルーピングを可視化する作業を行う。

第2ステップは「主従関係の割り当て」である。もっとも外側にある最大の「か」に対してのみ「又は」を割り当て、グループ内部の小さな「か」にはすべて「若しくは」を当てはめる。1段階の並列しかない場合は、迷わず「又は」を選択する。

第3ステップは「過剰な複層化の回避」だ。もし「若しくは」が何重にも入り乱れ、人間が一読して構造を理解できない条文になったなら、それは接続詞の使い分け以前に文章構造自体に無理がある。その場合は無理に1文で繋ごうとせず、箇条書き(号分け)を用いて条文を整理し直すのが賢明だ。

テクノロジーがどれほど進化しようとも、最終的に契約の文言に命を吹き込み、責任を負うのは人間の役割である。言葉の背後にある厳密なルールを理解することこそが、予期せぬリスクから組織を守る最大の防壁となる。 (出典: 若しくは 又は 違い(Yahoo!ニュース)

若しくは 又は 違い
若しくは 又は 違い
若しくは 又は 違い